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「おばあちゃん世代って、口裂け女のこと知ってるんだよね」
民俗学のレポート課題で「昭和の都市伝説」をテーマに選んだ美咲が、実家に電話をかけながらそう言った。同じ班の拓也と理子も、スピーカー越しに聞き耳を立てていた。
「おばあちゃん、口裂け女って覚えてる?」
電話の向こうで、少し驚いたような間があった。
「覚えとるよ。あんた、なんでまたそんな話」
「大学のレポートで。当時、本当に怖かった?」
「怖かったなんてもんじゃない。うちの学校、集団下校になったもの。先生が校門で待っとって、みんなでまとまって帰らされた」
拓也が理子に「マジで?」と小声で聞くと、理子は既にスマホで検索を始めていた。
「待って、これ本当にあった話みたい。1978年の12月に岐阜で噂が出て、翌年1月には新聞にも載ってる。岐阜日日新聞、1979年1月26日」
「新聞に載るくらいの話だったんだ」
「載るどころか、その年の6月にはほぼ全国に広まったって書いてある。週刊朝日でも特集組まれてる」
電話の向こうで、祖母がぽつぽつと話し始めた。
「マスクした女の人が、『私、きれい?』って聞いてくるんやって。きれいって答えたら、マスク外して、耳まで裂けた口見せてくる、っていう話やった。福島やら神奈川やら北海道やら、あちこちで似たような噂が同時に出て、パトカーが出動する騒ぎもあったらしい」
「それ、めっちゃ具体的だね」
「具体的すぎて、みんな信じてもうたんよ。うちの近所でも、実際にマスクした知らん女の人を見た、いう子がおって。今思えばただ風邪ひいとっただけかもしれんけど、当時はもうそういう空気やったから」
「その噂、いつ終わったの?」
「8月に入ったら、急にみんな言わんくなった。夏休みで学校がなくなって、噂を広める子ども同士の口コミが途切れたから、ってあとで聞いたことがある」
美咲がふと、通話をスピーカーのまま置いて、ノートにメモを取っていたときだった。理子が急に黙り込んだ。
「理子、どうした?」
「……今、電話の向こうで、なんか別の声しなかった?おばあさんの声じゃなくて」
拓也も美咲も、特に何も聞こえていなかった。もう一度電話に耳を近づけると、祖母は普通に喋り続けていた。理子だけが、しばらく落ち着かない様子だった。
レポート提出の前日、3人は最後にもう一度集まって内容を確認した。美咲が祖母から聞いた話をまとめたページを読み上げていたとき、理子が急に言った。
「ねえ、これ、私が聞き取った内容だっけ?」
「え?美咲のおばあちゃんに、美咲が聞いた話だよ」
「そうだよね。なのに、なんか自分が直接聞いた気がするんだよね……変なの」
理子は首をかしげただけで、それ以上は気にしなかった。レポートは無事に提出され、3人はそのまま夏を迎えた。
調査ノート:口裂け女の発祥と拡散の史実
美咲たちの体験は完全な創作だが、祖母が語った内容自体は、実際に記録されている史実に基づいている。
- 発祥: 1978年(昭和53年)12月初め、岐阜県で噂が発生したとされる
- 初の新聞報道: 1979年(昭和54年)1月26日、岐阜日日新聞に掲載。論説委員・村瀬睦氏によるコラムが文献上の最初期の記録とされる
- 噂の内容: マスクをした女性が子どもに「私、きれい?」と尋ね、「きれい」と答えるとマスクを外し、耳まで裂けた口を見せる、というもの
- 全国拡散: 1979年6月ごろまでにほぼ全国に広まったとされる。週刊朝日1979年6月29日号でも特集記事が組まれた
- 各地の被害報告: 福島県郡山市・神奈川県平塚市・北海道釧路市・埼玉県新座市などで集団下校が実施された記録がある
- 社会的影響: パトカーの出動騒ぎが起きるなど、市民社会を巻き込んだパニック状態にまで発展した
- 沈静化: 1979年8月、夏休みに入り子ども同士の口コミが途絶えたことで、噂は急速に沈静化したとされる
出典・参考文献: Wikipedia「口裂け女」ja.wikipedia.org / note「【第6回:都市伝説を検証シリーズ】『口裂け女』はなぜここまで怖れられるようになったのか」note.com / 国立国会図書館レファレンス協同データベース「岐阜新聞に口裂け女の想像図が載った記事」crd.ndl.go.jp(いずれも2026年8月時点でWeb上で内容を確認。当時の岐阜日日新聞・週刊朝日の原紙面自体は未確認のため、記述の細部は今後の一次資料確認で変わる可能性があります)
子どもの下校時・夜道の安全対策として、防犯グッズや連絡手段の確保は今も昔も変わらず大事だ。以前の記事でモバイルバッテリーを比較したので、外出時の安心材料として気になる方はチェックしてほしい。
このお話はフィクションです。口裂け女の噂が1978〜1979年に実際に発生し、新聞報道・全国拡散・集団下校等の社会現象になった経緯は上記の出典に基づく事実ですが、本記事に登場する美咲・拓也・理子という大学生3人、美咲の祖母とその体験談・会話はすべて筆者による完全な創作であり、実際に体験した出来事や、実在する人物の発言ではありません。特定の個人・実話を示唆する意図はありません。
アイキャッチ画像: “Kuroden(black telephone)” by Tomomarusan, CC BY-SA 3.0(出典)。※電話でのやり取りを象徴するイメージ画像です。