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「明晰夢の練習してるんだけど、これだけは絶対見たくない」
心理学のゼミで「夢と記憶」をテーマに選んだ楓が、ノートPCの画面を友人の遥と大輝に見せながら言った。夜の図書館、閉館間際の自習室での会話だった。
「猿夢?知らない」
「2000年に2ちゃんねるのオカルト板に投稿された話。すごく古いんだけど、今でも語り継がれてる」
遥がスマホで検索しながら読み上げた。
「夢の中で、薄暗い無人駅に立ってるんだよね。それで、アナウンスが流れる。『まもなく、電車が来ます。その電車に乗るとあなたは恐い目に遇いますよ』って」
「乗らなきゃいいだけじゃん」
「それが、来た電車が、遊園地にあるお猿さんの電車みたいな、ちょっと可愛い見た目をしてるんだって。しかも、中には顔色の悪い乗客が座ってる」
「怖いというより不気味だね」
「本番はここから」楓が声を落とした。「電車に乗ると、アナウンスが『活け造り』『えぐり出し』『挽肉』って、順番に流れていくの。それに合わせて、小人みたいな何かに、乗客が本当にそういう目に遭わされていく」
「子供っぽいモチーフなのに、内容がえぐいんだ」
「そこが猿夢の怖いところなんだよね。投稿者自身は、高校生か大学生くらいの女性だったって言われてる」
大輝が興味本位で聞いた。
「それ、実際に見た人とかいるの」
「明晰夢の練習をしてる人の間では、たまに『似た夢を見た』って報告が上がるらしい。都市伝説によくあるパターンだけどね」
その晩、楓は寝る前に、明晰夢のトレーニングをいつも通り行っていた。夢の中で自分の意識を保つ練習――それ自体は、猿夢とは関係のない、ただの趣味だった。
気づくと、楓は駅のホームに立っていた。薄暗く、誰もいない。心臓が跳ねた。まさか、と思う間もなく、アナウンスが流れ始めた。
「まもなく、電車が――」
そこで、楓は自分がこれは夢だと、はっきり自覚した。明晰夢のトレーニングの成果だった。夢だと分かっているなら、怖がる必要はない。そう自分に言い聞かせて、楓はホームのベンチに腰掛け、電車を見送ることにした。
猿の電車が、ゆっくりとホームに滑り込んできた。中の乗客たちが、窓越しにこちらを見ていた。楓は逃げずに、じっとその様子を見つめ返した。すると、乗客の一人――一番顔色の悪かった女性が、ふと、口の動きだけで何かを伝えようとした。
「乗らなくて、いいよ」
そう読み取れた気がした。電車はそのままホームを通り過ぎ、やがて夢自体がふわりと崩れて、楓は自室のベッドで目を覚ました。
朝、そのことを遥と大輝に話すと、二人とも半信半疑だったが、楓自身は妙にすっきりした気分だった。
「怖い夢のはずなのに、なんか、乗らなくて正解、って言われた気がして。安心して起きられたんだよね」
「それ、都市伝説の中に自分から入っていって、しかも助言までもらうとか、逆にすごいね」
「今度また見たら、今度はちゃんとお礼言ってみようかな」
楓は笑いながらそう言った。その日以来、楓は明晰夢のトレーニングを、前よりも楽しんで続けているという。
調査ノート:「猿夢」の初出と内容の史実
楓たちの体験は完全な創作だが、彼女たちが話題にしていた「猿夢」自体は、実際に2000年前後に2ちゃんねるへ投稿された怪談だ。
- 発生時期: 2000年、2ちゃんねるのオカルト板「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?」への投稿とされる(投稿の具体的な日付には情報源によって揺れがある)
- 投稿者: 高校生または大学生とされる女性(性別以外の詳細は明らかにされていない)
- 夢の内容: 薄暗い無人駅に立っていると、「まもなく、電車が来ます。その電車に乗るとあなたは恐い目に遇いますよ」というアナウンスが流れる。やってくる電車は遊園地の「お猿さん電車」のような外見で、顔色の悪い乗客が乗っている
- 展開: 電車内では「活け造り」「えぐり出し」「挽肉」という順で不穏なアナウンスが流れ、それに合わせて乗客が小人のような存在に襲われていく、という筋書きになっている
- 作品としての特徴: 「電車型遊園地」「猿の声」といった子供っぽく牧歌的なモチーフと、残酷な処理描写との強いギャップが、この話の印象を強くしている要因とされる
出典・参考文献: ピクシブ百科事典「猿夢」dic.pixiv.net / 怪奇カタルシス「2ch怖い話『猿夢』を徹底解剖!」kaiki-catharsis.com(いずれも2026年8月時点でWeb上で内容を確認。2ちゃんねる原スレッド自体は既に閲覧困難なため、内容は上記の解説記事の要約に基づく。投稿の正確な日付等、情報源間で細部の表記に揺れがある)
夜、就寝前にスマホで調べ物をしていて充電が切れると、それだけで妙に心細くなる。以前の記事でモバイルバッテリーを比較したので、気になる方はチェックしてほしい。
このお話はフィクションです。「猿夢」という話が2000年前後に2ちゃんねるへ実際に投稿された経緯、夢の内容・展開等は上記の出典に基づく事実ですが、本記事に登場する楓・遥・大輝という大学生3人とその体験談はすべて筆者による完全な創作であり、実際に起きた出来事ではありません。原話の投稿者本人の特定・詮索は行っておらず、本記事の登場人物も実在するいかなる個人とも無関係です。
アイキャッチ画像: “Nara Dreamland” by Jordy Meow, CC BY 3.0(出典)。※記事本文の遊園地とは無関係の、廃園となった実在の遊園地の写真です(雰囲気を伝えるためのイメージ画像です)。